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【虎徹談義】女体化からのNEXT考察【そして牛の不憫さよ】

虎徹談義:写真
 


「おじぃさんっ」
「はーい、今はおばさんですう」
 ………。
「おいおいっバーナビー。半眼怖いからやめてっ」
 しかもおじいさんになってたし悲しいっ、と目の前でのたまうこの人をどうしてやろうか。
 状況を聞き、急いで病院へと駆けつけた僕の時間を返してほしい。
 虎徹さんをほっそい目で見つめながら、僕は深く息を吐いた。
「入院は…、するんですか?」
 明らかに元気そうだが、一応聞いておこう。
「いんや、健康診断が終わったら帰っていいってよ」
 健康診断ですか…。僕は安心からまた息を吐いた。




 体調に問題はないため、虎徹さんはすぐに自宅に帰ることとなった。彼を送る車の中で、状況の確認をしたくて僕は話し始めた。
 僕は単体で取材が入り、虎徹さんとは別行動を取っていた。
「取材先で連絡は受けています。犯人のNEXT発動は搬送を始めた車内の中。影響を受けたのは、こ、おじさんのみ、要救助者はなし。…ということで、……合っていますか?」
 虎徹さんは、身振り手振りをつけながら説明をし始めた。
「ああ、俺だけだ。俺がこう…犯人、あいつの手を握って、こんなこともうすんなよって話しかけてるまっ最中の発動だったからな。一瞬、ひやっとして車内の全員を下がらせた」
 一息つくと、自分の胸へと視線を落とした。
「下がらせてから、胸のデカさに気がついたんだ。なるほどこのNEXTか、てな…。それからまずは、要救助者として搬送先をNEXT専門の病院に変えるだろ。あとは、不安がってたからNEXT相談所を紹介して…、シルバーステージにイイところあるんだぜ。相談員の年が幅広くて、子供から大人までいてさ。あっ、犯人が要救助者だな」


 しばらくすると、虎徹さんの相談所案内が終わった。
 おじさんがお節介なのはよく分かっています、と僕は言葉をかけた。虎徹さんは、なんだよおっとプウッと頬をふくらませた。そして言葉を続ける…。
「武器もニセモン。立てこもった所も銀行とかじゃなかったから、直接金目当てじゃねーみたいだし?大きな罪状にはならないんじゃないかなあ」
 今度はふんわりと笑った、まったくよく表情の動く人だ。
「良かったですね」
 僕が答えると、だろ?と短い返答があった。
 本当に、大ごとにならなくて良かった。
 僕はアクセルを踏んだ。車内が静かになったことは、お互い気にはならなかった。


 虎徹さんは自宅に着くとすぐシャワールームへと向かった。
 僕はロイズさんへ状況を報告すると…、特に出来ることもないのでそのまま待つことにした。
「ふいー」
 気の抜けた声で虎徹さんがリビングへと戻ってきた。長めのTシャツだろうか、脚が太腿まで見えている。
「バニーちゃんお待たせ。送ってくれてありがとう。ペリエ飲む?チーズもあるよ、食べるうう?」
「僕はバニーじゃない、バーナビーです。レディを送るのは、当然です。ペリエありがとうございます、いただきます。チーズも欲しいです」
 虎徹さんから言われたことに、僕は丁寧に答えた。
「りょーかい」
 虎徹さんはニカッと笑うとキッチンへと向かい、彼を手伝うために僕も立ち上がる。二人でお皿とグラスを運びながら、ロイズさんとの会話を彼に伝えた。
「ロイズさんに、先ほど現状は報告しました。明日は自宅待機で良いそうです。万が一、出動要請がある場合は出動してください、とのことです。今日は連絡して来なくて良いそうです」
 またかと小言を言われましたよと続けると、虎徹さんは肩をすくめた。ロイズさんには明日朝一で連絡するよ…と言いながら、彼はテーブルの横にぺったりと座り込んだ。
 

 ……なんだこれ。見てしまう……。
 虎徹さんとの会話の途中に、気がついたら脚のすき間を凝視していた。これはいけないと目をそらし、話しかけた。
「あの、すみませんが…。ズボンをはいてください」
「へ?あっ、そうか。駄目か?」
 虎徹さんに、コテンと首を傾げられる。
 くっそ可愛いっ。ああ、今の心の中の雄叫びは幻聴だ。僕は幻聴ということにして、首を縦に振った。
「いまのおじさんは女性ですし、下半身は出来るだけ冷やさない方がいいですよ」
 虎徹さんは、パチパチとまばたきをした。
「なんだ心配してくれたのか、ありがとな」

「いえいえバディーですから。当然のことです」
 サンキューな、と虎徹さんは立ち上がりクローゼットへと向かった。
 ほっとしながら、僕はチーズを口に含む……。


「実際、からだには気を使わないといけないなあ…」
 割と真剣な声が聞こえてきて、僕もその通りだと一人うなずいた。見たところ虎徹さんの体調は良さそうだが、この状態はいつまで続くのだろう。
「あの、NEXTの症状が切れるのは、いつ頃になりそうですか?」
 はっきりと聞こえるように、大きな声で問いかける。それがまだ分からないってさ、と虎徹さんの声が聞こえてきた。


「あー、ホント全然分からないんだよなあ…。今回初めてのNEXT発動だろ?今日はがんばっても能力の特定まで、で。強さと持続性はこれからだな…いつ頃になるかなあ」
 ジャージをはいた虎徹さんは、話しながら僕の目の前を通り過ぎた。
 三日後か一週間か、一ヶ月かかるか。明日元に戻るってぇことはなさそうだな…と話しながら、彼はトイレやシャワールームへとパタパタと動き始める。
 何をしているのだろう……。
「一ヶ月かかるとめんどくさいんだよな」
 そうですよね、出動への対応など面倒ですよね。僕は虎徹さんに心の中で返事をする。
「いろいろと用意しとくわ」
 そうですよね、何事も準備は大切です。
「おお、ナプキン残ってたよかったっ」
 それは良かったですね、ナプ。


 ……え? は?


 おかしな単語を耳にしたぞ。いやそうじゃない、それよりもっ。残ってる残っているって、残っていた……過去形。
 それを、使ったのかああああ!
「こてつさああんっ!」
「だあっ、なに?」
 ビクッと身じろぐと、彼はこちらを見た。
 どしたの、名前で呼ぶの珍しいね。虎徹さんは何事もなかったように、こちらを見ている。そして、手にはそれを握っている。Yes、開封済み!
 聞き間違いでも見間違いでもなく、虎徹さんは確実にそれを手に取り、ポーチに数個入れた。それからトイレにビニール袋をセッティングすると、残ったものを取り出しやすい場所にしまい直した。
 そしてまた、戻ってくると僕の横にぺたりと座った。
「で?どしたの?」
「でっ、じゃありませんよっ。聞きたいことが山ほどありますっ」




 虎徹さんの説明を、僕は不機嫌な表情で受け止めてしまった。
「虎徹さんが、以前にも性別が変わるということを経験していたなんて……。今初めて知りましたよ」
 何で話してくれなかったんですか、僕は髪をかきあげた。僕はまだ信用に足るべき人間ではないということなのだろうか…。
 虎徹さんは悩み始めた僕を見上げると、困ったなという顔をした。
「んー…いやっ、わざわざ話すことでもなかったっていうか。ほら、俺は10年間ヒーロー活動してるだろ、いろいろあんだよ。それに性別転換NEXTは珍しくもないしな…」
「えっ、そうなんですか?」
 僕は驚いた。
「ああ性別転換とか、人の体に何らかの影響を与えるNEXTはよくいるんだ。それに俺はこう名付けてる『肉体変化形NEXT』(ドヤ顔)。でさ、そのNEXT発動は、その人の願望と欲望が関係してんじゃないかと、俺は思う訳よ」
 一瞬固まった僕に向かって、虎徹さんは自らの経験に基づいた、興味深い持論を展開し始めた…。



「まず今日の立てこもり犯。美容院に立てこもっただろ?搬送中の車の中で話している時に、アイツは女になりたいってわけじゃなかったんだが…。美しさに酷く執着しているな、という印象を俺は受けた」
 あの犯人、彼がなぜあの店を選んだのか僕も不思議に思っていました、と応えを返すと虎徹さんは大きくうなずいた。
「『肉体変化形NEXT』は華やかな場所や、それに関係するところで、騒ぎを起こすことが多いんだよ」
 整形外科で凄いのに出会ったことあるぜっ…と、虎徹さんはぶるりと体を震わせた。
「あとは性犯罪。性別転換もいるけど、相手の肉体を操作するやつも多いな。肉体に影響、変化を与えるってことだ」
 こいつらはほんとに、ワイルドにお仕置きだよな。厳しい顔でうなずきながら虎徹さんの話は続く…。
 それから、動物の耳が生えたり年齢が逆行したり、さまざまなNEXTの説明が続いた。僕はそのどれもが『肉体変化形NEXT』であることに驚いた。
 そして、新たなことに気がつくこととなる。
「虎徹さん。ヒーローの中でも、スカイハイ、ブルーローズ、ファイヤーエンブレム。彼らの能力って…、とても珍しいんじゃないでしょうか?」
「さすがブルックスJr!スカイハイ達は能力の強さだけじゃなく、希少性が高いんだぜ」
 僕は続けて、他のヒーローについての自分の見解を説明した。
「他のヒーローは。折紙サイクロンの能力は擬態、自分の肉体を変化させる『肉体変化形NEXT』。バイソンさんも肉体を硬化させる『肉体変化形NEXT』です。ドラゴンキッドは、体から発するので『肉体変化形NEXT』に近いような気がしています…」
 ああそうだ、とうなずきながら、虎徹さんは僕の考えを補足してくれた。
「折紙サイクロン、イワンはネガティブ全開だからな。あのコンプレックスの強さが、擬態の能力につながったんじゃないかと俺は思う。アントニオは、あいつは昔から強さにこだわってた。そしてドラゴンキッド」
 虎徹さんは得意げに続けた。
「パオリンは、『気』…、だと俺はにらんでる」
「気、ですか?」
「ああ、聞いたことぐらいはあるだろ?東洋医学では、気は認められてる。パオリンのあれは、波動の一種なんじゃないかな」

 虎徹さんの持論は、とても分かりやすかった。
 それは考えが浅いのではない。経験に基づいたリアルな説明があり、余計な部分を削ぎ落して伝えてきてくれている。つまりは、洗練されているのだ。
 僕は眼鏡をかけなおした。この会話は面白い……。

「なるほど。僕はあちら側の知識はあまりありませんが。人の心理が人体に影響を与える…ということについては認めています。『プラシーボ効果』は有名ですからね」
「そうそう『プラシーボ効果』。だからさ、心理が人体に影響を与えるってのは、もう定説なのよ」
 虎徹さんは自分のグラスにペリエを注ぎ直すと、僕のグラスにも注ぎ足す。
「ヨガもさ、スポーツクラブでやるストレッチ感覚の人が多いけどな。あれは自分の体に対して行う、瞑想なんだぜ」
「へえ…」
「日常生活の中で考えると。うーんと…、美容版かな」
 ピンク呼吸、アファメーションとかは心理を利用しているな…と彼はいくつかの方法論らしきものを出してくる。僕が知らないと答えると、虎徹さんは、えっと驚いた。
「何ていうか、すんごいキレイだから知ってると思ったよ」
「僕が綺麗なのは元からです。小細工などしていません」
「小細工って、おまえなあっ。容姿に対する努力をばかにすんなぁっ」
 ワイルドに拗ねるぜっ。虎徹さんは眉をぴくぴくと動かした。
「…すみません言い過ぎました。別に、馬鹿になどしていません。僕にはやることがありましたから」
 優先順位は常に一つのみでした、と続けると虎徹さんの目つきが変わった。僕をじっと見つめてくる。
 

 こんな時、この人の目はとても綺麗になる。
 目の中に僕が映っているのが見える。この中に存在していることを、嬉しいと思う自分がいる。
 素直な自分にあきれてしまうが、居心地がよいという感覚はくっきりとしていて……、もうしかたがない。
 僕は、その視線をまっすぐに見返した。
「もう、大丈夫ですよ」
「ああ…、そうだ。大丈夫だ」
 虎徹さんは言いながら、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でてきた。セットが乱れますっと睨んでも、にひひっと笑って止めようとはしない。僕は、そのまま撫でられることにした。
 頭を撫でながら僕の耳元で、虎徹さんが小さな声ではっきりと言った。
「なあバーナビー…。心の力ってのは強いんだぜ…」
 そうですね、とても…、強くなりました。
 今の僕はその言葉に、同じように答えることが出来ます。


「虎徹さんの話を聞いているうちに、性別が変わるなど、大したことがないことのような気がしてきました」
 今日はこの話が聞けて良かったです、と僕は言葉を漏らしていた。
「だろ?だからわざわざ言わなかったんだって。実際、女体化には何度もなってんだからさ」
「何度もなんですか?」
 少し驚き聞き返すと、虎徹さんは指を使って数えはじめ。二ケタにはまだ入ってないぞーとのんびりと答えを返してきた。
「ありえないですよ…ふふっ」
 あきれながら笑うと、それにも答えを返された。
「アントニオは二ケタだぞー」
 ありえない人が近くにいたと独り言ちていると、虎徹さんはすぐにフォローをしてきた。
「あいつはさ。ボディーアタックで戦うからさあ、『肉体変化形NEXT』からの影響を一番受けちまうんだよ」
 虎徹さんの言葉が続く。
 例えば、スカイハイは距離取れるから影響を受けづらいんだ。俺はあいつが女になったとこ見てみたいぜっ…。
 彼の言葉から、僕は少し想像力を働かせた。スカイハイさんは美人になりそうだ。バイソンさんは…。

「アントニオは雄っぱいがオッパイで、すんごいぞー」
 雄っぱいがオッパイで、すんごいぞー。
 雄っぱいがオッパイで、すんごいぞー。
 雄っぱいがオッパイで、すんごいぞー。

「………ふう」
「ん、どした?」
 虎徹さんが、上目遣いで覗き込んできた。
「いえ…、アントニオさんは心配ですね」
「名前で呼んでるぞ」
「どのぐらい大きくなるのか…、心配です」
「うん。文章おかしいぞ、バニーちゃん」
 これから出動時には、アントニオさんをよく見ていないといけないな、とても心配だからだ。
「どんだけ大きくなるのか、心配です。ふーっ」
「よし無理!『シンパイ』の意味を辞書で調べろ、兎ちゃんっ」
 おもしれえと、虎徹さんは笑った。僕も笑う。なぜだか無性に楽しかった…。



「では…、もうそろそろ帰りますね。…失礼いたしました」」
 帰る頃だろうと思い、僕は挨拶をしながら立ち上がった。
「虎徹さん、ペリエとチーズごちそうさまでした」
「おう。明日は会社に行けなくてごめんな」
「いえ、もし何かありましたら、遠慮なく、絶対に連絡をください」
 おうよ、と虎徹さんは、可笑しいものを見たような顔でうなずいた。僕は虎徹さんに笑いかけると、彼の家の玄関を後にした。




 金のくせ毛が、機嫌が良さそうにゆれている……。
「明日には、おじさん呼びに戻ってるだろうなあ…」
 虎徹はバーナビーのそれを見送りながら、自分も楽しそうにつぶやいた。
 バーナビー・ブルックスJr。金髪緑眼、いかにも王子様。そしてプライドも高くて悪態もついてきた。
 最初は、性格に問題有りと思った。彼がそこしか見せてこなかったからだ。
 でも、虎徹はようやく気がついた。完璧な評判の裏には、強がって、完璧であろうと一生懸命努力する姿があったことに。

 殻が取れてしまえば、なんと可愛らしいことだろう。

 性根はとてもイイやつだったのだ。最近では、尊敬の念もこちらへ伝えてきてくれる。
 相変わらず強がってはいるけれど。なかなか直さないおじさん呼びも、おそらくその辺りなんだろう。
「バニーちゃん。おじさんのこと大好きだもんなあ」
 分かりやすいんだもん。虎徹はリビングに戻りながら、大きく伸びをした。
 ああ、分かりやすいといえば…。
「ふーっ、にはうけた。バニーちゃんてば男の子。あ、牛ごめんな」
 虎徹はごめんと両手を合わせたが、すぐに残ったチーズをたいらげることに集中をしはじめた。あまり申し訳ないとは、思ってはいないようだ。


 なるほど。アントニオ・ロペス、牛が不憫ということもおそらく定説なのであろう。
 ヒーロー達は、時々変わる仲間たちの性別をスルーしている。
 そして今日もまた、犯罪軽減のために頑張っているのだ…。
 みんなありがとう。そしてありがとう!






……終……


私も、ふうっ(笑)……