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アントニオカンの作ったハチミツレモンは美味い

レモン:写真
 


「だあっつい。すずしいっ」
「両方言わないでください」
「なんだよー、両方言った方が喜びが倍増するだろー」
「全く、これだからおじさんは…」
「なんだよおー。いいもん、おじさんはこの喜びを堪能するんだもん」
 なんだよバニーちゃんと言いながらも、虎徹はバーナビーのすぐ真横に立っている。
 二人は並んで、エアコンから出てくる『神の風』を受けていた。わちゃわちゃと言い合っているのだが、バディは今日も仲が良さそうだ。おじさんは『神の風』を受け、んふんふとご機嫌である。
 時は8月の猛暑。ここはトレーニングルーム。
 シュテルンビルドの企業も、一週間ほどの休みを取るこの時期。虎徹達ヒーローには、企業からのヒーロー業務以外の仕事もほとんど来ない。
 また汗ダラダラの中では誰も動きたくなどないのか、犯罪率も軒並み下がり、彼らはトレーニングルームに全員集合をしていた。
 そして実際のところトレーニングというより、皆が涼しいからこの場所に来ていたのであった。


「外は暑いね、うん」
「そうですね。まだしばらく続くそうですよ」
「うわっ降参だ、それは降参だ」
「あははっ」
 サイクリングマシンでは、イワンとキースがそのままの状態で休憩を取っていた。
 マシンの横に置かれたスポーツドリンクは、かなり量を減らしている。二人ともそんなに走った訳ではないのだが、この時期は自然と水分を摂ることになる。
「そういえば繰り返しませんでしたね?」
「ん?」
「暑いって」
「ああ、それは繰り返したくない。繰り返したくないよ」
「あはっ、キースさんが人間だっ」
 この暑さにはかなわないよと、キースが苦笑している。そんなキースを見て、そうですよねすみませんと、イワンはテレペロをした。


 少し離れた場所ではフローリングの前の鏡に寄りかかり、ホアンとカリーナが居る。
 二人は始めから休憩を取っていた。そうだ暑いのだ、まずは休憩を取るべきなのだ。二人は正しい。
 お互いの肩にお互いがもたれながら、二人は一緒に薄い雑誌をめくっている。カリーナが開いたページを指で指し示し、ホアンは頬を染めている。
 今日のホアンのトレーニングウェアはベビーピンクのTシャツだった。袖はパフスリーブとなっていて、丸みのある柔らかいデザインとなっている。
 対するカリーナは、オフホワイトのカットソー。ウエスト部分が少ししぼられていて、スッキリとした、腰のラインが美しいデザインとなっていた。
 ホアン、可愛いよホアン!カリーナ、カリーナビューテフル!
 離れているので何を話しているのかまでは分からないが…、女子は可愛い。可愛いはHEROS!

 エアコンの近くのベンチでは、ネイサンとアントニオが並んで腰をかけていた。
「新陳代謝が活発になってるから、汗がすぐに出てくるのよねぇ」
「だな。動くとすぐ出るんだよな」
「美容よりも、健康のために水分補給ね。熱中症には気をつけなくっちゃ」
「だな。ネイサン、レモン水飲むか?作ってきた」
「あらん、嬉しいっ、頂くわ」
 生の果物って体にいいのよね、とネイサンが喜んでいる。牛さん牛さん、レモン水の前に、自分のお尻に置かれている、ネイサンの手については注意はしないのですか?…ああ、お二人は…なるほどそうでしたか。
 アントニオは穏やかに笑いながら、ボストンバッグから大きめのポットを取り出した。わあおっとネイサンが歓声を上げる。歓声につられ皆の視線がネイサンと、アントニオの手に持つポットに集まった。
 ポットの中には大きめに切られたレモンが漂っていた。下に沈んだ蜂蜜をかき混ぜるために、アントニオがポットを軽く揺らした。キラキラとレモンと水と、溶けた蜂蜜が揺れて光った。神だ、『神の飲み物』だ!
 ヒーロー全員が、わあっとアントニオに群がった。


「バイソンさん。それ飲みたいよー」
「ちょ、ちょっと欲しいな。飲みたいな」
 女子というものは、デザートバイキングとドリンクバーには駿足で動きます。ホアンとカリーナはアントニオの一番近くを陣取っていた。
「バイソンさん、少しいただけないでしょうか?おいしそうです」
「うん、美味しそうだね。とても美味しそうだ」
 駿足ならイワンも負けず、二番目に近いポジションをキープし、キースもそれに続いている。
「ですが、バイソンさんのを全員でいただくと、無くなってしまうのではないでしょうか?」
 集まりながらも、バーナビーはアントニオに冷静に話しかけた。虎徹はバーナビーの後ろから覗きこんでいる。おや、僕よりも前に出そうなおじさんが珍しい、とこの時バーナビーは思った。
「ああ、それなら大丈夫だ」
 アントニオはニパッと笑うと、ボストンバッグからポットを2本取り出した。先に取り出したのと合わせると、全部で3本。
「作ってきたんだ。みんなで飲もうぜ」
 アントニオは、両手のポットをちゃぷちゃぷと揺すった。
「やったー。バイソンさんありがとー」
「きゃっ、ありがとー」
「流石バイソンちゃんっ」
「ありがとうございますバイソンさんっ」
「ありがとう。そして飲もう!」
「バイソンさん、ありがとうございます」
「アントニオ、ありがと。ごちになりまーす」
 バーナビーがごちになりまーすと言う虎徹を見ると、紙コップ一本を袋ごと、すでに握りしめていた。なんだ知っていたんですね、虎徹さん。
「お、虎徹、それみんなに配ってくれ」
「おうっ分かってるぜ。りょーかいっ」
「んっ。カリーナ、ホアン、みんなについでくれるか?」
「うんっ。つぐよー」
「はーい。まかせてっ」
 アントニオが両隣にいる彼女達に声をかけると、カリーナとホアンはとても良い返事をした。  そして男性陣、1人やや違う方も含まれるが…にレモン水を丁寧についでまわった。もちろん、両手でポットを少し揺らすことも忘れない。世の男性諸君、ものすごく可愛いお嫁さん候補がここにいますよ。


 レモン水が皆に行き渡ったところで、ネイサンが声をかけた。
「ではみんなで、バイソンちゃんのレモン汁っいただきまあす」
「汁って言うなっ」
「バイソンさん、いただきまーす」
「いただきます」
「バイソンさん、頂きます」
「頂くよ。うん頂くよ」
「ありがとうございます。頂きます」
「アントニオ、いただだきまーす」
 みんなでお礼を言いながら、レモン水を飲む飲む…ゴクゴク…。
「…はあっ、美味しーい!」
 女性陣3名は揃って歓声をあげた。あの方は、今は女性です。そして他のメンバーも口々に、美味しい美味しいと口に出した。
「染み渡るわあ。お肌に染み渡るわあー」
 ネイサンがクネクネと喜んでいる。それを見て牛さんもニコニコしている。なるほど、仲がよろしいようで。
 バーナビーは虎徹に話しかけた。
「そういえば虎徹さんは知っていたんですね」
「あ、うん。こいつとロッカールームで会った時に『レモンいっぱい買ったから作ってきた』って言ってた」
 楽しみにしてたんだわ、んふふーと虎徹は笑った。確かに、これは楽しみにするとバーナビーもレモン水のオカワリをしながら思った。
 バーナビーが見渡すと、そこに居る全員がオカワリをしていた。うん確かに、これは美味しい。そして美味しい。あ、僕、一瞬キースさんになってしまった…。




 オカワリをして一息をついても、皆はアントニオの側から離れなかった。
 これは、ヒーロー達の最近の傾向だ。何となくアントニオの側にいたい、何だか安心する…。
 アントニオは、目立つとかカッコいいとか、すぐに一目惚れをするような特徴はあまりなかったのだけれど、長く付き合うことで伝わってくる『人の良さ』を持っていた。そしてこれは、最終的な人間関係を決める鍵でもある。
 ヒーロー達は現在、この鍵で心の扉を開けられてしまっていた。全員だ。そして全員だ。




 立ち去らない皆を見て、んっどうした?とアントニオはコテンと首をかしげた。ああ可愛い。おやじとは、コテンと首をかしげる生き物なのか。
 そんなアントニオに、イワンが話しかけた。
「何でそんなにレモンをいっぱい買ったんですか?」
「ああ、スーパーで山盛りだったからな。つい多めにな…」
「何で山盛りー?」
 ホアンが疑問を口にする。うんうんとカリーナがうなずく。
「最近のスーパーは、真夏用の品揃えなんだぞ」
 アントニオは素直に懐いてくれる若者たちが嬉しくて、話しながら一番近くのホアンの頭を撫でた。
「バイソンさん、スーパーに真夏用とかあるんですか?」
 バーナビーも会話に加わった。
「ああ、あるぞ。あと、ハロウィンにはお菓子のコーナーが増えたりするだろ?」
「へえ、知りませんでした」
「ああ…、バーナビーおまえは知らないだろうな…」
 真夏だと何でレモンが山盛りなの?とカリーナがアントニオに聞いてくる。


「夏バテとか熱中症対策のためだろう。お前達、食欲とか落ちてないか?」
「僕、いつもはオカワリ2杯なのに最近は1杯だよ」
「ホアンは、オカワリ出来るなら大丈夫か…。イワンとカリーナとバーナビー、はどうだ?」
「僕は食欲落ちてますね。体を小さくしてエネルギー消費をごまかしてます」
「私、ゼリー状ドリンクでごまかしてるー」
「僕は栄養剤で、ごまかしています」
「おまえたちはっ。全員、ごまかすなっ」
 アントニオに勢いよく、メッと怒られ、イワン、カリーナ、バーナビーはしょんぼりと下を向いた。アントニオは声を出したあと、考える顔つきになった。
「食欲ないのを無理に食べてもキツいからな…。そうだな…ああ、お前達、素麺は食べたことあるか?」
 カリーナとバーナビーは首をふるふると横に振り、イワンは首を横に振りながらテンションを上げた。
「ソオオーメンッ。日本の冷製パスタでござるなっ。細く清らかに美しい、あのソオーメンッ」
「まあ、素麺がそんなお洒落なものとは思えんが。明日ここで作るよ、みんなで食べよう」
「バイソンさん、かたじけないでござるっ。ありがとうございますっ」
「やったー。明日はみんなでご飯だっ」
 ピョンピョンとホアンがはねて喜んでいる。カリーナもキャッキャと喜んでいる。バーナビーは申し訳なさそうに、アントニオに話しかけた。
「ここで作るなんて、手間のかかることをすみません」
「ん?素麺は簡単に作れるぞ。給湯室にガスコンロがあれば楽勝だ」
「僕も何か、お手伝いいたしましょうか?」
「や、それはいい。大丈夫だ」
 すんなりとバーナビーのお手伝いを、アントニオは断った。うん、その方が良いだろう。
 それからアントニオは、何も知らない若者たちに素麺の食べ方を軽くレクチャーをした。
「素麺は大皿にまとめて出すからな。つゆはお椀に入っているから、薬味を自分で付けて食べるんだぞ。」
「大皿?やったっ」
「ツユ?」
「オワン?コバチのことですか?」
「ヤク、ミィ?」
「ふっ…、ホアン1人でじゃないぞ。カリーナ、イワン、明日食べる時また話すさ。バーナビー薬味ってのは、ネギや梅干しやかつおぶし、ミョウガ、ごまとか。薬味は栄養価が高いんだ。素麺ならさっぱりと食べれて、夏バテも吹き飛ぶぞ。あ、きざんだ塩こんぶも明日持って来ようかなあ……」
 アントニオの説明と独り言を聞きながら……。
 ホアン、カリーナ、イワン、バーナビー、…若者たちの心の中はこの時一つとなった。
『ああ、ママンッ。ああ、お母さんっ』




 この日ヒーロー達の心の日記に、特に若者たちに『アントニオカンの作ったハチミツレモンは美味い』と刻みこまれた。そして、明日の日記には素麺もまた、刻みこまれるのであろう…。
 アントニオカン絶好調!
 さあ、明日は素麺だ!






……終……


私もアントニオカンのハチミツレモン飲みたいよー……