二次創作site / 間違って来訪された方はお戻り下さい

側にいるから

炎牛側に:写真
 


 あいつが最近使ってるの、イイよな…。
 俺はシャンプーを手に出しながら、ネイサンの棚を見ていた。棚には、新しいシャンプーとリンスが並んでいる。俺が頭をモコモコと洗っていると、あとから入ってきたネイサンが声をかけてきた。
「トニー、それ使ってっ、あ、じゃあリンスだけでも使ってみてくれない?」
「おういいぞ。ネイサンのところの新作か?」
「協賛会社の、新作の一歩手前のものよ」
 一歩手前?と聞き返すと、成分チェックは問題なくて…あとは香料をどうするかなんですって、と返ってきた。なんでも、向こうの営業マンが直接ネイサンのところに製品を持ってきて、モニターを頼みこんだとか…。
 ネイサンは美容に詳しいし、経営者としての目もあるからだろう。俺が今、思った通りのことを口に出すとネイサンが続けた。
「それから、女性からも男性からも、好感のある香りにしたいんですって」
「おお、それは大正解だ」
 強めのシャワーで俺は泡を流す。ネイサンは頭を洗い始めながら、いきどおっている。
「何よ大正解って。男だなんて失礼しちゃうっ」
「お前は、俺に何をしていると思っているんだ?」
「んふふー」
「左手で洗いながら、右手で尻を揉むな」
「私、器用なのよお」
「それは知っている」
「ワオ!知ってるだなんて嬉しーい」
 うわ止めろっと俺は騒ぐが、ネイサンも俺も笑っている。そう、お互いにふざけているだけなのだ。
頭を洗い終わり、二人でリンスを手に取った。


「ネイサン、俺この香り嫌いじゃないぞ」
「ん?そお?」
 男性からの好感て言ってただろ、と俺は説明をした。
 おまえもずっとこれだし、気に入ってるんだろうと言うと、うんいい香りよね、とネイサンが気分良さげに笑った。ああ、ホントに気に入ってるんだなあ…。
 リンスを髪にペタペタと馴染ませていると、ネイサンが俺の胸毛にもリンスを垂らしてきた。そこはいいと断ったら、さっき洗ってたでしょう?と不思議そうな顔をされた。
「洗ってたんだがな。自分のでも付けたことはあるんだが、それは断る」
「意味、わかんないんだけど?」
「胸毛につけると香りがするんだ、だから…」
「これの香りが強いってこと?不良品ね」
 ネイサンが瞬時に、商売人の顔になる。俺は慌てた。
「ちがうちがうっ。違うんだっ」
「じゃあどういうこと?」
「あー…うーん…」
 俺は目線を上にあげ、どうしようかと考える。




 ネイサンの協賛会社の人に、迷惑をかけるわけにはいかない。恥ずかしいけれども、俺は『胸毛にリンス』が駄目な理由を話すことにした。
「だから、ネイサン、最近それ使ってるだろう」
「そうね……?」
 だから何?と表情で聞かれ、上手い言い方も思いつかずに、俺は駄目な理由をそのまま口に出した。
「だから胸元から香りがすると、側にいる感じがしてだな、自分のならいい。それは、やめろ……ネイサン?」
「ううおおおおおお!」
 シュコシュコシュコシュコッ、とネイサンはリンスを連打し始めた。
「うあっ何やってんだっ、なくなるぞ。うあっ、だから胸毛につけるなって」
「つけるに、決まってんだろおおおおおっ!」
 ネイサンは雄叫びをあげた。俺は、ネイサンの為すがままとなった。


 筋肉に負担をかけないように、ゆっくりと肩を降ろす。
「ふー…」
 ダンベルをマットレスに置くと、俺は一息ついた。少し水分を取ろうと、ベンチに向かって歩き出す。
 ネイサンの昨日の雄叫びはびっくりしたなと、あいつのことがすぐに頭に浮かんだ。いやさっきから、浮かんでばかりで離れない。それというのも胸元から立ちのぼる、ネイサンのこの香りのせいだ。
「お疲れ様です。バイソンさん」
「おうバーナビー、お疲れさん」
 走り込んでいたバーナビーも、休憩を取りにきた。トレーニングルームには俺たちしかいなくて、自然と二人で話す空気となった。
「バイソンさん、エステにでも行ったんですか?」
「なんだ突然。おまえじゃあるまいし、行くわけないだろう」
 ツヤツヤしていますよと胸元を指し示され、よく見ているなと俺は感心した。俺は虎徹がシャンプーを変えても…、無理だ分からん。
 僕も美容院には月2回行きますが、エステにはそれほど行きませんよ、とバーナビーが髪をかき上げる。こいつそんなに行くのか凄いなと、バーナビーの揺れる毛先を見ていたら、鎖骨に光るチェーンに気がついた。
「バーナビー、それ…」
「これですか?指につけられない時は、下げるようにしているんです」
 バーナビーはクイッとチェーンを引き上げると、それを俺に見せた。
 それは大事な、小さなものを持つ手つきで触られ…、指に乗せられたのは、銀色のシンプルなデザインのリング。
「虎徹も持ってたな」
「はい。二人で、選びに行きました」
「キラキラしてるな」
「そんなに、派手じゃないものを選んだんですが」
 いやバーナビー、お前がだ。
 それからバーナビーの指輪ストーリーが始まり、その話に俺は耳を傾けることとなった。


 二人で、オフを取って指輪を見に行ったんです。
 虎徹さんの好みを最優先して、選んだんですよ。お前も少しは選べよって言われてしまいました。
 あっでも、誓いのキスに関してはゆずりませんでした。教会で、ちゃんとしたんです、虎徹さん恥ずかしがっちゃって。可愛かったなあ…。
 僕たちもいろいろとありましたけど、今は上手くいっています。虎徹さん、可愛かったなあ……。


 俺は、虎徹が可愛いというリピートに関しては疑問だが、バーナビー・ブルックスJr.が今、輝いていることは認めよう。こいつ、キラッキラッしているぞ。
 そして、俺はこの輝きを好きだと思った。人が幸せなのは、いいことだ。
「お前たちは、堂々としてるんだな」
 ピタリとバーナビーの言葉が止まった。
「あ、いやすまん。悪い意味じゃない」
 バーナビーは俺と視線をしばらく合わせると、柔らかく微笑んだ。
「分かっていますよ」
 分かってくれたか良かった、うん。でもなんだか最近、こいつが妙に、俺に優しくなった気がする。気のせいか、気のせいだろうな…。
「バイソンさんからは、虎徹さんと同じ匂いを感じますからね…ふふふ」
 俺は少し、寒気を感じた。






「うしっ、走るかあっ」
 だいぶ話したし、トレーニングに戻ろうと、俺は膝を叩いて立ち上がった。脚を揺らして確認をする、大丈夫だほぐれている…。


「僕も走ります」
バーナビーが、隣のマシンに乗ってきた。
「お前さっきも走ってただろ」
「僕は足技主体なので、意識して鍛えているんですよ」
「そうか、気を使っているんだな」
 こいつの足技は本当に凄い。
 俺はこいつの、本気のキックを受けた事があるから良く分かる。俺のような系統のNEXT能力者でなければ、おそらく吹き飛ばされてしまうだろう。
「バイソンさんは、意識して鍛えているところはありますか?」
「俺か、俺は腹筋と背筋、腰回りだな。俺は相手からの攻撃を受け止めるからな。重心をしっかりさせるというか…安定感を意識している」
 俺の話す内容に、バーナビーがうなずいている。
 俺たちヒーローは自分の能力を理解し、制御する。そしてその能力に見合うように、自分の身体能力を高めていくことが必要不可欠だ。


 走り込んでいると体温が上がり、ネイサンの香りが体を包んだ。
 俺は自分でも知らないうちに、深呼吸をしていた。
 バーナビーがランニングマシンのモニターをチェックしている、集中し始めたらしい。
 俺とバーナビーは、そのあとは無言で走り続けた。








「送ってもらうなんて悪いな。ありがとな」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
 トレーニングを終え、俺はバーナビーに送られることとなった。
 助手席に乗り込みながら、俺は声をかけた。バーナビーは穏やかに笑っている。
 やっぱり、こいつは俺に優しくなった気がする。変な意図は感じないんだが、時々悪寒はする。
 今は、くすぐったい。俺は咳払いをして前を向いた。


「バイソンさん、さっきの話」
「ん?」
「堂々としている、という話です」
「ああ、それか」
 バーナビーが運転をしながら俺に話しかけてきた。何だ?
「バイソンさんとMissネイサンは、お付き合いしてるんですよね?」
「ああ、うん付き合ってるぞ」
 俺はうなずいた。


 バーナビー、お前は本当にイイやつだ。Missと呼ばれたあいつが、俺に何をしているか…。
 いやいや、これを考え始めると俺の無二の親友、虎徹の状況も頭に浮かぶ。バーナビーよ、お前は虎徹に何をしている。俺と虎徹は、何がどうしてこうなったんだ?
 だが俺は結局、あいつのことが好きなんだよなあ……と、一人で脳内会話を終了させた俺に向かって、バーナビーが続けて話しかけてくる。
「Missネイサンはああいう方ですが、バイソンさんは、態度にあまり出しませんよね」
「そう、だな…うん」
「今日はバイソンさん、楽しそうでしたね。お泊まりでしたか?」
 Missネイサンと同じ香りもしていますし、というバーナビーに対して俺は、ああそれは、一緒に住んでいるんだとぽろりと答えた。
 バーナビーは固まり、あきれたように息を吐いた。
「バイソンさん、態度に出さなさ過ぎですよ」
 確かに…、俺は恥ずかしかったので、みんなの前では発表はしていない。
 いつからですかと聞かれ、一年ほど経っていることを、正直に白状をした。一年ですか…とバーナビーはつぶやいた。




 俺は、バーナビーに自宅まで送り届けられていた。
「良い場所ですね」
「ああ、だろ?」
 俺とネイサンが住んでいるのはシルバーステージにある、外観はナチュラルで地味目だが、セキュリティーがしっかりしているマンションだ。
 俺は一目で気に入った。ネイサンも、帰るところはこんなところがいいと言い、二人でシェア契約をした。
 エントランスで別れる時に、バーナビーが俺に言った。
「いい雰囲気のところに住んでますし、みなさんに伝えた方がいいと思いますよ」
「伝える?」
「隠しているわけでは無いのでしょう?」
 ああ隠しているわけではないと俺が言うと、でも僕は知りませんでしたよと、いたずらっぽく笑われた。
 俺は両手を上げた、こいつは本当に堂々としている。お前はかっこいいなあと口に出る。
「ありがとうございます。でもそれは、気にしていないんです」
「そうなのか」
「ええ。気にしているのは、安心してもらうということです」
 安心かと、バーナビーが言った言葉を俺が繰り返せば、バーナビーもまた繰り返した。
「はい。安心してもらいたいんです。これからも、ずっと側にいるんですから」


 よし、準備はこのぐらいでいいだろう。
 俺はリビングのテーブルの上に並べた、プリントアウトをした婚姻届の説明書と、ジュエリーショップの案内を確かめていた。
 ネイサンとは、一緒に居ることがとても心地が良かった。
 同棲して、穏やかな普通の毎日を二人で過ごし…、何となくここまで来てしまったのだ。
 だが、これからも一緒にいるのなら、考えるべきことだったんだ。バーナビーとの会話は、きっかけに過ぎない。
 そろそろ帰ってくるころだろうと身構えていると、チャイムが鳴った。
「うし!」
 玄関まで俺が出迎えると、ネイサンが驚いた。
 どうしたの何かあったの?と歩きながら尋ねてくる。俺は、見てもらいたいものがあるからと、ネイサンをテーブルの前まで案内した。
 ネイサンはテーブルの上のものを確認すると、あらまあっ、あらまあっ、と繰り返した。そして顔を伏せ、ポロポロと泣き出した。
 う、嬉しいのか?、大丈夫なのか?俺はネイサンの顔を覗き込んだ。
 馬鹿ねえ、トニー。嬉しいわよ、すっごく嬉しいわよ。ネイサンが、俺の鼻にキスをした。ああ、良かった、ネイサンが喜んでくれて良かった…。


 俺は安心して、おまけの品も差し出した。
「ネイサン、これ。ハンドクリームなんだが…俺の新しいスポンサーで、もらったんだ」
「なあに?」
「アプリコットのいい香りがするんだ.。良かったら使ってくれないか?」
「いいけど?」
「俺が、最近使っているんだ」
 ざわりと、ネイサンの周りの空気が変わったことに俺は気づかず、話し続けた。
「俺はこんな性格で、態度には出せないんだが…、これからも側にいるぞ。……ネイサン」
「うおっしゃあ!来たあああ!」
「な、なんだっ、ネイサンどうした?」
「トォニーッィ…。あんたは本当に、可愛い男ねええ!」
「え?…は?」
「いただきまああすうっ」


 ガバリと抱きつかれ、肩に担がれ、俺はネイサンに寝室へと運ばれる。
 何だ、どうした?どうしてこうなった?何が起こった?何故何故、何で? 疑問がぐるぐると頭を回っているが、俺の体は寝室へとドナドナされている。
 頭の中がぐるぐると回っている俺に向かって、ネイサンが歩きながら話し始めた…。


「匂いや香りって、とても生理的なものなのよ」
「お、おう」
「それを好きだと言われたり、意識されると、もうたまんなく嬉しいの」
「そ、そうか」
 だからネイサンは、あんなにリンスをシュコシュコしたのか…。
「それを今度は、貴方が…私にプレゼントしたのよっ」
「お、おう」
「んもうっ。まだピンと来ないのね、可愛いバカ牛!自分はベッドでどっちなの?」
「…?」
「いいか、よおおーく聞けよ。ネコが自分の香りを贈るってことは、『プレゼントはあたしっ、ぷるるん』って尻を振ってんのと同じなんだよお」
「おわっ!」
 やっと気づいたかお前…、とおっしゃるネイサンの肩の上で、俺の体は羞恥で真っ赤になっていた。


 ネイサンが男言葉のまま、俺に尋ねてきた。
「嫌か?トニィー…」
 俺は真っ赤な体のまま答えた。
「い、嫌じゃ、ない…ぞ」
「んふふふ…」
 ネイサンの嬉しさが、肌から伝わってくる。そして俺の気持ちも、きっと肌から伝わっているんだろう。
 俺は気恥ずかしくて、ほんの少しモゾモゾと動いた。
 ああこれからも、ずっと側にいたいと決めてはいるが…。


 今日はどうやら、眠れなくなりそうだ…。
 





……終……
食べられろ牛。そしてみんなでお幸せに…リンゴーン♪……



炎牛側に:表紙の写真

本にしました。
初めて作った同人誌、コピー本です。
チューリップも可愛いけど、
HPの画像も個人的に凄い好きです。