素麺作るよ!

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 ショリッ…ショリッ…ショリッ…!
香ばしいカツオ節の匂いがふわりと立ち上る……。
「いいにおーい」
小皿に食材を並べ終わったカリーナは、手持ち無沙汰となり…、カツオ節を削っていた虎徹の手元を覗きこんだ。
「刃物使ってっからあんまり近づくんじゃねーぞ」
「え?わ、わかってるわよっ」
「怪我したら、危ないだろお前が」
「え?ふ、ふん。飲み物準備しよっと」
「おー、よろしくっ」
 虎徹は手元に注意がいっていて、カリーナの頬が染まったことには気がつかなかった。もっとも見てたとしても鈍感な虎徹のことだ、気が付かないかもしれないが…。


 まだまだ暑いぞ、夏の真っ昼間。
 アントニオは、トレーニングルームで若者たちに『素麺を作るぞ』と言った次の日、約束通りに素麺の一杯入ったスーパーマーケットの袋を持って現れた。
 アントニオはスーパーの袋は自分では持ってはいない。袋を持っているのはバーナビーだ。
 最初は、運転手だけをお願いする予定だったアントニオだが、
「僕が持ちますっ」
と言うバーナビーの言葉と、キラキラした笑顔には勝てなかった。
 ハンサムって凄いね、牛にも効果があるんだね。バニーちゃんお手伝い出来て良かったね。


 カリーナは給湯室に向かうと、入り口の壁をコンコンとノックした。中に居るアントニオに声をかける。
「バイソン、薬味は全部並べたわよ」
「おう、サンキュ。じゃあ茹で始めるか」
 アントニオは大きなホーロー鍋に浄水をはり、湧かし始める。
 横のカウンターにはガラスで出来た大皿が用意してあった。形は三日月、いや半月ぐらいだ。
 カリーナは近づくと、お皿を撫でた。少し分厚く、ポコポコとした表面が気持ちがいい。
「ねえバイソン、このお皿可愛い」
「ん、だろ。ショッピングモールの中に、オリエンタルな雑貨を扱ってるところがあるんだ。そこで買ったんだ。同じシリーズで小皿もあったから、それも買った」
 さっき薬味を並べた小皿がそうだったかと、カリーナは思い出した。形は普通の丸い小皿だったが、表面がこの大皿と同じだった。
「どうした?何かあるのか?」
 アントニオはお皿を触ったまま動かないカリーナに、何か他に用事はあるのかと尋ねた。
 そうよね、私は何しにここへきたんだっけ?とカリーナは思った。あ、そうだ。
「飲み物をね、持って来よーかなと思って…」
「そうか。…人数分はちょっと重いぞ、イワンとホアンかバーナビー、手が空いてるやつに声かけたらどうだ?」
「え?あ、そうねっ」
 うん、重いって分かってる。恥ずかしいから、こっち来ちゃっただけだもん。
「じゃ、じゃあ声かけにいこうっと」
「おう。あ、ちょっと待った」
「なあに?」
 ちょうど良い大きさの漆器を、アントニオはカリーナに手渡した。
「虎徹がカツオ節削ってるだろ。これ渡してくれ」
「う、うん。渡すわねっ!」
 カリーナは張り切って答えた。


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